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考えるカジノ文化論

#2|マカオ編「ギャンブルが強くなるための食事の作法」を考える

世界のカジノを巡り、各国のコミュニティにどっぷりと浸かってきたfirepoicatが、カジノにまつわる海外文化を考察していく連載。知的好奇心が刺激される「文化論」を通じて、まだ知らないカジノの面白さが見えてくる。第2回は、マカオの食事文化とギャンブラーの意外な接点を紹介。

前回はこちら ▷ #1

 

ポーカーキャリア原点の街・マカオ


今回紹介するのは、マカオ。

カジノによる経済規模では、今や圧倒的な世界ナンバーワンのギャンブル都市になりました。コロナ前時点(2019年)でその売上げたるや、なんとラスベガスの3倍。

かつては地場企業だけにカジノ経営が許されていましたが、2001年に外資企業にも開放。外資系カジノとして一番乗りを果たしたサンズ・マカオは、初期投資をわずか1年で回収したと言われています。チャイナマネー恐るべし。

自身のカジノ初体験は、実はこのマカオでした。まだサラリーマンをしていた2010年にポーカー友達と訪れて、グランド・リスボア カジノの威容に興奮したことを覚えています。

その後ポーカーにハマり続けて会社を辞め、まさかプロポーカープレイヤーとして世界旅の後にマカオにマンションを借りて住むことになるとは。人生、どこに転機が転がっているか分からないものです。

ゼロが一つ違う唯一無二のスケール


1999年にポルトガルから中国に返還されてからは、中国の特別行政区という位置付けになっていますが、マカオ、香港の住民はそれぞれ中国とは独立したパスポートをもっていて、観光客目線では別の国と捉えた方がしっくりするかもしれません。国境や入国審査もあります。

ラスベガスはド健全なエンターテイメント都市の様相なのですが、それに対しマカオは狂乱のチャイナバブル。唯一無二の空気を感じられる国なので、旅先としても一見の価値ありです。アメリカと違って基本的に何を食べてもおいしいし。

物価やギャンブルレートは上がり続けていて、今や主要カジノでのバカラの最低ベット額は1,000HKD(約15,000円)。一張り5秒の丁半バクチが15,000円から。これがミニマムベットですよ。なんというか、目にするカネの桁が一つ多いんですよね。

ある時いつものようにウィン・マカオでのポーカーを終えてキャッシャーに行ったところ、たくさんの高額チップを換金中の人が。2,000万円ほどでしょうか。たくさん持っているなと思いながらぼんやり見ていたら、実はゼロが一つ違って2億円。そのまま大量の現金を紙袋に詰めて去っていったということがあります。いや、さすがにそれはVIP専用キャッシャーでやってくださいよ。

サイバーパンクシティで激動の経済成長を感じよう


そんなバブリーなマカオですが、ことさらに趣深いのは、古びた雑多な街並みの中に突如キンキラキンのカジノがそびえ立っているというミスマッチにあると思います。まさにサイバーパンクシティ。

ちなみにカジノ周りのローカル商店街でよく見かける「押」の文字は質屋で、高級時計をクレジットカードで買ってその場で売り、現金を手にするという仕組みです。当然ながらエグい利鞘を抜かれるらしい。良い子は手を出しちゃいけません。

経済成長が続くマカオは国としてカネがあるため、治安は非常に良く、教育や福祉などは基本無償。災害時の補助も手厚い。国が豊かになるというのはこういうことなのでしょう。

未来は輝かしいものだと言わんばかりのパワーに満ち溢れているのは、良くも悪くも変化が少ない日本からみると、正直うらやましく感じる部分もあります。


マカオを訪れたなら、カジノだけではなくローカルエリアの街歩きで激動真っただ中の雰囲気を肌で感じてみるのがオススメ。

食のレベルも概して高く、特に現地人にも人気の火鍋と呼ばれる鍋料理は、食レベル世界王者の日本をも唸らせる美味しさ。調子に乗ってフカヒレなんかを頼んでしまうと、こんなところでもまたお会計のゼロの数が変わってきたりするのでご注意ください。

でもローカル店であってもそんな高級品がどんどん頼まれてたりするのが、さすがマカオというところなんですよね。

自分もカジノのレストランメニューは食べ飽きていたので、街を散策してはポーカー友達とローカル店で食べたりすることもよくありました。長期滞在のためには食事情は大事です。

そんな中で気付いたちょっと面白い発見があったので、ご紹介したいと思います。ということで今回は、食事の作法のお話。

強いギャンブラーの食事の共通点


自分はプロギャンブラーになって10年ほど経ちます。その中でたくさん稼いでいる強いギャンブラーと食事をする機会はそれなりにあり、その人達には共通の傾向があることに気付きました。

・注文を決めるのが早い
・食べたくなくなったら躊躇なく残す

注文の早さに関しては、深く考えずともギャンブルの強さと相関がありそうに思えますね。知り得る情報の中から限られた時間で最善の選択を取るということで、共通した要素があるのでしょう。

実態としては日常の金銭の出入りが大きすぎて、食事代を気にしないという側面もありますが。良くも悪くも。

一方で、食事を残すこととギャンブルの素養には何か関係があるのでしょうか。

「サンクコスト(Sunk cost)」という言葉があります。行動経済学の用語で、既に支出されており、今後どのような意思決定をしても回収できない費用のことを指します。食事の場合は、既に注文した品の料金ですね。残った分を食べても食べなくても、支払う額は変わりません。

サンクコストは選択によらず取り戻せない費用なので、ギャンブルでもビジネスでも、意思決定に際してはこれを無視するのが合理的です。しかし現実ではこれが非常に難しい。

バカラで100万円負けてしまった時「ここまで時間とカネをつぎ込んでおいて、今更やめられない!」

ポーカーでブラフをコールされて迎えたリバー「ここまでブラフしたんだから最後までいくしかない。でないと無駄になってしまう!」

費やした投資を取り戻そうとする心理が働き、それがしばしば正しい判断を損なわせるのです。「もったいない」の精神を叩き込まれた日本人には特にその傾向があるようにも思えます。

またサンクコストは、日常にも溶け込んであなたの判断を蝕みます。

例えば、首尾よくギャンブルで勝利を収めたあなたは、ウィン・マカオのミシュラン二つ星レストラン、「永利軒(ウィン・レイ)」にいるとしましょう。

本場の絶品中華をたくさん注文したあなたは、最後のメニューであるアワビチャーハンを半分ほど食べたところで、程よい満腹感を覚えてしまいました。半分残るこのチャーハン、どうしてくれましょう?

ここで、強いギャンブラーの方々は躊躇なく残すのです。多くの人に湧き上がる「もったいない」という気持ち、それこそが実はサンクコストの呪縛。だってあなたはもうお腹いっぱいなのですから。

お残しは、許します!


日本にはお残しせずに全部を食べきるのが美徳という意識が強くあり、もちろんそれを否定するつもりはありません。

ただ、満腹になっていながら不本意にお腹に詰め込むのは、ちょっと考えなおしていいかもしれないな、と思います。美容と健康にもあまり好ましくないですしね。

残すぐらいなら頼むな、という意見もあるでしょうが、お残しを気にして、食べたいものを諦めてしまうのもまた悲しいことではないでしょうか。

また中国文化圏では、実はマナーとしてお残しの慣習があります。複数人で食事をする際に、料理の一部を残すことが良しとされるのです。食べきれないほどの料理でもてなしていただいた、という感謝の意を表すそう。

ということで、今回の結論を、語弊を恐れずに一言でまとめてみることにします。

「強いギャンブラーになりたいなら、高くて旨いもの頼んでも容赦なく残せ」

カネとマナーが許す限り、好きなものを好きなだけ食べればいいのです。それこそがギャンブル素養にもつながる合理的な判断というものでしょう。

たかが食事の注文とはいえ、積み重ねた日常の判断は、いざという大きな勝負で正しい判断を下す手助けをしてくれることでしょう。

次回はヨーロッパに目を向けてみたいと思います。

(#2 了)

前回はこちら ▷ #1


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