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バージン・カジノ・メモリーズ

#4|山道を進む車中ーこの車は本当にカジノに向かっているのだろうか?

マニラでカジノにハマり、多額の借金を負うも「いつかまた行きたい」とカジノへ思いを馳せ続けるライター・犬が、人生初カジノの「原体験」を回想する連載。ありがちな失敗から、???な出来事まで、もう二度と味わうのことできない思い出の数々を振り返る。第4回は、知らないおじさんに声を掛けられ、そのまま車に乗るという無謀な方法でカジノへ向かうが……。



前回はこちら ▷ #1 / #2 / #3


人の流れとは別の場所へ向かった

マレーシアにあるクアラルンプール国際空港からクアラルンプールの中心部までは直行バスが出ていた。空港の中に同じ飛行機に乗ってきた旅行者がたくさんいて、入国審査を終えてから散り散りになるのだが、行き先は人の数だけあるというわけではない。

日本でイベント会場に向かう時、地図を見る前に大きな人の流れがあったらついていけば目的地に着くように、マレーシアに着いたら最も多くの人が向かう先がクアラルンプールであると予想した。

1万円分だけマレーシアの通貨「リンギット」に両替し、バスチケットを事前に購入した。インターネットが使えない僕たちは、この先、北も南もわからない。この直行バスからクアラルンプールと思われる街に放り出された時、そこからどうやってカジノに行くかさえも知らない。

数十分の間バスに揺られていたと思う。初めての海外旅行で僕たちは完全に浮かれていて、ソワソワしている間に時間が過ぎていくから体内時計がどんどん狂っていく。

「ウッ、ここか」

ゴミの臭いが鼻を通り過ぎて脳に達し、外に目を向ける。空港よりも車の通りが多い。思ったよりも街だった。入国審査で全く英語での意思疎通が取れなかった僕は完全に自信をなくし、できるだけ看板に書いてある英語を頼りにカジノまで行くつもりだった。

事前に調べたところ、ロープウェイやバスがあった気がするが、バス停の周りを歩いてみてもそれらしい表記も設備も無い。ただ広いバスターミナルに行き先のわからないバスとタクシーが大量に停まっていた。

「これからどうするよ」

「とりあえずもう聞いてみるしかないだろ」

僕たちは交通整理員や暇そうなバスの運転手に「Casino, Casino」と声をかけた。みんな方向を教えてくれたり何か答えてくれたりするが、その方向に行ってみても何も無い。いつの間にか同じバスに乗っていた人の流れも見失っていた。


謎のおじさん現る

途方に暮れる僕たちに知らないおじさんが声をかけてきた。ニヤニヤしながら何かを言っていた。

「Casino, Casino」

「OK, OK!」

おじさんは近くにあった自分の車のドアを開き、乗るように促してきた。タクシーですら無い。

「How much?」

と聞くと、おじさんは首を横に振る。聞き取れない英語を何度も聞き返してみると、おじさんもカジノに行くからついでに乗せていこうと言っているように聞こえた気がした。

「もういいよ、乗ってこうぜ」

「ぼったくりかも」

「もう仕方なくね?」

無知や無謀とはとても恐ろしいものだ。今や日本でも知らないおじさんに話しかけられて車に乗ることなんて有り得ないだろう。しかし僕たちはそれよりも楽しい旅行の時間が刻一刻と減っていくことの方が恐ろしかった。ハイになってしまった僕たちは、今後の人生で二度と乗らないような、極めて危険性の高い誘いに乗ることにしたのだ。


動き出した行き先不明の車

おじさんは助手席に僕を、友達を後ろに乗せて車のエンジンを乱暴にかけた。

「じゃあ出発するか」

そんな感じのことを言って僕たちに満面の笑顔を見せたおじさんの歯は、全て金色だった。

外で会話している時は何を言っているのか理解しようとしすぎて全く気がつかなかったが、気づいた時にはもう遅い。車が動き出し、密室は完成した。

「コイツ全部金歯じゃん」

と二人が後ろで笑った。

「静かにしろよ」

と僕は叱る。いくら言葉が通じなくても礼節を欠いた言動は雰囲気で伝わってしまう気がしたからだ。

「Japanese?」

おじさんが訪ねる。日中韓の三国は他国からすると顔が似ていてわかり辛いと聞く。きっとオロオロしている気の弱そうな様子から日本人と断定されたのだろう。Yesと答えるとまたおじさんは聞き取れない英語で話しかけてきた。おじさんが会話の中で時折、Hahahaと笑うので、僕たちもそれに合わせて笑った。独裁者の側近になった気分だった。


とにかく必死で話しかける

1時間ほど経ち、車はいつの間にか都市を抜け、山道に入った。次第に僕たちの中に疑念が湧いてくる。この車は本当にカジノに向かっているのだろうか?

「これ誘拐だったらどうするよ」

一人が呟く。後ろの二人が、もし車に不穏な動きがあれば、若者三人がかりでおじさんを制圧しようという話をしていた。こちらからすればおじさんが怖いが、善意で乗せているかもしれないおじさんからすれば、こんな計画を立てている僕たちは完全に犯罪者だ。

僕は作戦がバレないように、おじさんに必死に話しかける。

「Have you ever been to Japan?(日本に行ったことがありますか?)」

5W1Hという文法用語がある。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)を表す英単語だ。僕は中学校で学ぶレベルの英語を駆使し、おじさんの日本に関する思い出を根掘り葉掘り聞いて時間を稼ごうと思っていた。

5W1H、合計6つの質問ができる。

加えて、ザイオンス効果と呼ばれる心理学用語もある。人は同じものに何度も触れることによって対象に好意を持つようになるらしい。

僕は、このおじさんがもし人身売買の組織の人間でも、会話を重ねることで情が移り、万に一つの可能性で解放してくれることを期待していた。命乞いをするにしても生存確率を上げておこうという作戦だ。三人の中では一番年上なのだから、僕がしっかりしなければならない。

さあ、日本との思い出を語りながら僕たちを愛してくれ……!

「No」

泣きそうだった。5W1Hを懐にしまい、おじさんの股間を見つめる。もしも、もしも万が一の事が起こったら、僕は真っ先にここを殴りつけよう。


山道を抜けるとそこは……

車に乗ってから3時間近くが経とうとしていた。依然として山道を進む車の中で、僕たちはいよいよ命の危険を感じ始めていた。おじさんが一人でずっと話をしている。不思議なもので、段々何を言っているのか聞き取れるようになっていた。

おじさんは僕たちの気持ちを察してか、「もうすぐ着く」と何度も言ってくれている。僕は心の中でおじさんに襲いかかるシミュレーションを何度も繰り返していた。後ろの二人も、銃が出てくる前に腕を押さえつける段取りまで決めていた。

更にそこから1時間が経った。お世辞にも良いとは言えないボロシートに4時間も座っていると腰も痛くなってくる。車は山を登り続け、気圧が上がってくるのを耳に感じた頃だった。

「Look!」

おじさんの声に顔を上げると、山に生える木の間から巨大な中華人形のようなものが見えた。ここがカジノの入り口らしい。進むほどに視界が開けてきて、10分ほどかけてその全貌が見えてきた。

左手に角張ったホテルのようなものが見え、右手には丸みを帯びた城のようなものが建っている。日本で見たら廃墟になった遊園地だと思ってしまったかもしれない。

山道を並走する車やバスをほとんど見かけなかったのに、着いた先には人混みがあった。

ゲンティンハイランド。当時、マレーシアで唯一の国営カジノは山の中にあったのだ。

(#4 了)

前回はこちら ▷ #1 / #2 / #3


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