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バージン・カジノ・メモリーズ

#3|入国という大関門ー語尾が質問っぽかったらサイトシーイング、それ以外は笑顔で頷け。

マニラでカジノにハマり、多額の借金を負うも「いつかまた行きたい」とカジノへ思いを馳せ続けるライター・犬が、人生初カジノの「原体験」を回想する連載。ありがちな失敗から、???な出来事まで、もう二度と味わうのことできない思い出の数々を振り返る。 第3回は、ついにマレーシアに到着。しかしまたしても、「入国」という大きな関門が立ちはだかる。



前回はこちら ▷ #1 / #2

見知らぬ土地と見知らぬ臭い

今となっては見かけないが、「ハワイの空気」「南極の空気」なんて胡散臭い缶詰の商品が流行ったのは何年前だったろうか。こうして全く見かけなくなってしまうと「あの頃に一回くらい買っておけば良かったな」と思う。

目が覚めるとそこは東南アジアだった。

まだ飛行機が完全に停止していないのに、空気の臭いが変わったことに気づく。踏みつけられた土の臭いが、湿った空気に運ばれていた。田んぼや公園とは一線を画した独特な臭いだ。

機体の中は極端に寒かった。格安航空会社特有の乱暴な空調のせいかもしれない。

サウナと水風呂の関係のように、飛行機から東南アジアの空港に足を踏み入れた時、日本よりもずっと蒸し暑いはずなのに快適に感じた。芯まで冷えた体の外側を生暖かい空気が包んでくれる。

まずはスーツケースを受け取るために荷物の受け取り場を探す。日本でもマレーシアでもスーツケースの回転寿司みたいな巨大なベルトコンベアの形は一緒で、あれだけ入出国の時に厳重に検査や確認をしたにも関わらず、このベルトコンベアのシステムは大雑把だ。

今まで被害に遭ったことが無いだけで、実はやろうと思えば人の荷物を盗み放題なのではないかと思う。実際自分のスーツケースが見当たらない時は一抹の不安に駆られる。

20分ほどレーンを眺めてようやく3人の荷物が揃い、鉄道に乗り込む。クアラルンプールとクアラルンプール国際空港の位置関係は、東京都と成田空港にかなり似ている。腰を落ち着けられるのは宿に着いてからだ。

英語なんていらない人生を送ってきたのに

鉄道に乗り込む前に、あのイベントがあった。

「Youは何しにこの国へ?」

入国審査だ。噂には聞いていたが、海外に行くと入国審査があり、完全な外国人に完全な外国語で入国の目的を聞かれる。外国人は僕らの方ではあるが。

英語なんて要らない人生を送ってきた高卒の3人にとって、ここは関門だった。

大学受験の勉強だけしたことのある僕が、事前にここでのセリフを覚えてきたので二人に伝える。

「語尾が質問っぽかったらサイトシーイング、それ以外は笑顔で頷け」

入国審査の場所には大量の人がいた。もう日本人らしい顔はごくごく少数派となってしまった空間に違和感を覚える。そういえば日本人が少数派である空間に来たのは、クロネコヤマトの倉庫のバイト以来だ。

列なのか群なのかわからない人だかりの中に身を任せ、徐々に前へと進む。東南アジア特有なのか、誰も抜かしたり抜かされたりしている様子がないどころか、順番の意識すら持っていなかった。

自分たちの番が近づいてくる。

「なあ、パスポートって見せるよな。いつ見せればいいんだ?」

高卒から出てきた一つの疑問が二人の不安を煽る。

「パスポートプリーズとか?」

「聞き逃しそうだわ」

「ちょっとgoogleで調べるか」

ここで気づいたが、僕は海外旅行において1、2を争うほど大切な物を用意し忘れたことに気づく。

「Wi-Fi忘れちゃった」

電波と水は失って初めてその大切さに気づく。刻一刻と自分たちの順番が近づいてくる。

「とりあえず他の日本人がどうしてるか見よう」

大人になってから行く知人の葬式で焼香の仕方がわからず、故人を悼む気持ちを抱えながらも前の人をじっくりと観察することがある。今が、まさにその時に培った観察眼を発揮する時だ。

何を話してるんだかわからないが……

明らかに自分と同じような顔の人たちは恐らく日本、中国、韓国人のいずれかである割合が高い。こうして見渡してみると、なるほど確かに自分たちが「黄色人種」と呼ばれていたのがわかる。

僕たちの前を行く日本人らしき人たちは皆、入国審査官と一言交わし、パスポートを見せ、一言交わし、そのまま通過していた。

「二礼、二拍手、一礼、的な感じね」

主体性の無い学生時代を送り、まともな就職もできなかった僕たちは、それぞれのくだらない職場で出来の悪い上司に「見て学べ」と言われ続けてきた。見様見真似は悲しい特技だった。

僕の番が回ってくる。

「Hello」

「What’s the purpose of your visit?(渡航目的は?)」

「(パ……パスポートのことか?)Here you are.」

「What’s the “PURPOSE” of your visit.(渡航目的は?)」

「(わからねえ、とりあえず流しとくか)Sightseeing.」

「Look at this camera.(このカメラを見て)」

「(か、カメラ?どれのことだ?)ahh….」

「Look at “THIS” camera.(このカメラを見て)」

審査官は指で目の前のカメラを指差す。入国の際にカメラで撮っているらしい。よく見ると、入国者と審査官を分けるアクリル板に小さいカメラが貼り付けてあった。

初めての海外では入国審査の時に顔写真を撮るからカメラ目線になれ、なんてどんなブログにも書いてなかった。

いや、もしかすると見落としてただけなのかもしれない。

英検3級取得者としての言い訳

“purpose”という単語は知っていたが、唐突に出されると全然聞き取れなかった。結局3人の中で唯一英検3級を取得していた僕が一番時間がかかってしまった。

「マジで緊張したわ。めっちゃもたついちゃった。お前らどうだった?」

「パスポート出しながらサイトシーイングって先に言ったら普通に行けたわ」

「お前英語できるってあんだけイキっといて全然ダメダメだったじゃん」

「英検3級の内容とちょっと違ったんだよね。やっぱ東南アジアだから英語の発音も違うし」

思わず自分が言ってしまった、情けなくてダサくて最悪な言い訳は、6年経った今も鮮明に覚えている。

(#3 了)

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